生理痛がつらい(月経困難)
①産婦人科に相談する目安
日本産婦人科学会では、『月経困難症とは、月経期間中に月経に随伴しておこる病的症状』と定義しています。簡単に言うと月経困難症とは、生理中に起きる困りごと全部、と言うことです。
生理痛はその中でも一番多く発生する症状です。
生理痛という言葉はよく聞くし、あって当たり前と思っている人も多いかもしれません。
実際に外来でも、すごく辛い生理痛があるのに「皆んなこんなものかな」と、一生懸命に我慢して過ごしている方を多くみかけます。また、産婦人科を受診した方が良いか迷う方もおられます。
産婦人科に相談に来た方が良い目安としては、生理痛がある方は全員相談に来て頂きたいですが、市販の痛み止めが効かない方は、特に相談に来て欲しいと思います。
理由は、辛い痛みから解放されるのでお勧めしたいというのと同時に、鎮痛剤が効かない様な痛みがある場合、お腹の中の子宮や卵巣に病気があったり、中には放っておくと将来的に不妊症の原因になったりする病気もあるからです。年々と痛みが強くなっている、生理が重くなってきた、と感じる人も、同じ様に病気が隠れている可能性があり、早めに産婦人科受診をお勧めします。
生理痛だけでなく、下記のような他の困りごとが同時にある場合はより注意が必要です。
病院に相談に行く目安
- 生理痛が辛くて、学校や仕事に行けない
- 生理の時の出血量が多い
- 生理痛がだんだん悪くなっている気がする
- 市販の痛み止めが効かない
- 排便、排尿の時に痛い
- 性交渉の時に痛い
ご相談に来て頂くことにより、お薬によって痛みが軽減したり解放される可能性があります。
また、いろいろな作戦を立てる事によって、今のご自身の生活だけでなく、将来のご自身の身体にとっても、大切なメンテナンスが出来ます。
②生理痛の原因
生理痛の原因は年齢や症状によって変わります。
検査によって子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科の病気が見つかる事もあるし、お腹の中に全く病気が無くても生理痛は起こります。
生理痛の原因は、大きく分けて2つに分類されます。
原因不明(機能性月経困難症)
検査をしても、はっきりとした原因が見つからない、でも生理痛は確かに辛い、という状態を“機能性月経困難症“と言います。機能性月経困難症の生理痛は、子宮が過剰に収縮するために起きる痛みです。
10~20代の若い人に特に多く、特に治療や予防を行わなくても、年齢と共に自然に治ってしまうこともよくあります。
診察を受けて明らかな病気が見当たらなくても、痛み止め(鎮痛剤)、漢方薬、ピルなど、生理痛が辛いとご自身が感じる時点で治療の対象になります。
子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科の病気
超音波や内診などの検査をして、子宮内膜症や子宮筋腫と診断される場合もあります。
この2つの病気は、生理痛の原因として頻度が高い病気です。
2つとも病気としては、良性疾患、つまり悪性ではない(癌ではない)ので、すぐに命に関わる病気ではありません。(子宮内膜症は大きくなったり、悪化すると癌化することもあります。)
どちらも生理時の出血量が増えたり、生理痛だけでなく、排卵時や排便時、性交渉の時にも痛みがあったりします。そして何より、「いま妊娠したい」または「将来妊娠したい」と思う人にとって、妊娠し難い状態を作ったり、妊娠中にトラブルを起こしたりする、とっても厄介な病気です。
そして、これらの婦人科疾患は、一旦発症すると、自然になくあることはありません。
基本的には、毎月の生理や排卵に伴って活動的に放出されている女性ホルモン・エストロゲンを糧にどんどん大きくなったり悪化するという習性を持っています。
将来的に妊娠・出産をひかえている年代の方や、閉経までまだ時間がある方は、早めに診断をして、悪化しない様に上手にコントロールしてあげる必要があります。
早めに何らかの薬物療法を開始したり、少なくとも診断して慎重に経過観察すれば、知らず知らずに大きくなったり悪化したりして不利益を被ることは避けられます。
早めにきちんと診断をして、将来的な不利益を避けること、いざと言う時の妊娠・出産に備えること、将来の癌化の予防に向けて、対策をすることがとても大切です。
③検査
まずは、お腹の中に目で見える様な病気がないかどうかの検査をします。
お腹や膣から観察する超音波や内診(膣からの診察)によって、子宮内膜症や筋腫などの病気がないか調べます。画像を目で見るだけでなく、血液検査で病気の証拠を確かめる事もあります。
性病の可能性を調べる事もあります。生理痛が辛いのは、骨盤内の感染が原因のこともあるからです。
性病の検査は、膣の中のおりものを採取して調べたり、血液検査によって調べます。
④生理痛の治療
当院にて可能な生理痛の治療です。
- 痛みどめ(鎮痛剤)
- 低用量ピル
- 漢方薬
- 子宮内ホルモン放出システム(ミレーナ)
- ジェノゲスト(子宮内膜症治療剤)
- GnRHアナログ製剤
- 上記の組み合わせ
最後に、「いつまで続けたら良いの?」という点も説明します。
1 .痛みどめ(鎮痛剤)
一般の薬局で売られているのは、ロキソニン、イブ、バファリンなどです。
病院で処方されるお薬も同様の種類のお薬が処方できます。病院で処方する場合は保険診療になる分、割安です。
一言で痛み止めと言っても、痛みをブロックする方法(薬の作用機序)には、それぞれのお薬で特徴があります。人によっては、痛み止めによって胃痛が出たりすることもあります。
毎月使うかもしれないお薬なので、相性の良いお薬を見つける事が大切です。
痛みどめには色んな種類があるけれど、どの薬にも言えることは、強い生理痛が発生して「今が1番最悪に痛い」という状態になってから飲んでも効果が弱いと言うことです。
毎回の生理痛が辛いと言う人は、最悪に痛くなる前に、生理が始まったら決まった時間に飲むようにする方がお勧めです。
2.低用量ピル
ピルとは、本来自分から出ている2種類の女性ホルモンと似た成分がごく少量含まれているお薬です。
外から少量入ってくるホルモンのお陰で、ご自身の脳と卵巣はコントロールされて、自力では排卵が起きなくなります。
排卵が起きないと女性ホルモンの働きがゆるやかになり、本来なら生理の時に厚くなるはずだった子宮内膜は薄くなります。子宮内膜が薄くなることで生理の時の血の量が減ること、子宮内膜では痛みの原因となる成分(プロスタグランジン)が作られているので、それが減る事で生理痛が軽くなる、と言う仕組みです。
ピルには色々な種類があり、飲む日数、お薬代、生理痛以外の症状に対する効果の違いなど、それぞれにちょっとずつ特徴が違います。生理痛を抑えてくれること以外にも、月経前緊張症(PMS)が改善する、肌荒れの改善(ニキビへの影響)や、むくみが出やすい出にくい、など、薬の種類によって色んな特徴があります。
当院では、患者さんそれぞれにどんなピルが良さそうか、相談をしながらご提案していきます。
副作用
むくみが出る、とか、お胸が張るなどもありますが、一番注意が必要なのは、深部静脈血栓症と言って、足の細い血管が詰まってしまう病気です。
注意
低用量ピルは、40歳以上の方は慎重投与です。この場合は他の方法をご提案させて頂きます。
3.漢方薬
体が冷えていたり、代謝が悪いと生理痛が辛くなることが知られています。
反対に身体を温めると生理痛は軽くなる傾向があることが知られています。
漢方薬には冷えを改善する効果があるので、継続して飲むことで身体の冷えが改善して生理痛が軽くなると言う仕組みです。
最大の特徴は、目立った副作用がないことです。相性が合う漢方薬があれば、ずっと継続できます。
また、痛み止めやピルと平行して使うことも可能です。
4.子宮内ホルモン放出システム(商品名:ミレーナ)
子宮内ホルモン放出システムは、下の写真の様なアルファベットのYの形の器具です。
大きさは約4~5cmで、白い部分の太さは、つまようじくらいです。
ミレーナを子宮内に入れると、ここからホルモン剤がゆっくりと持続的に放出されます。(約5年間)ミレーナを入れている間、自分の排卵や生理は起きますが、ミレーナから放出されるホルモンのお陰で、本来厚くなるはずの子宮の内膜は通常よりも薄くなります。
薄くなることで、出血量が減る、内膜から出る痛みの原因成分が減る、と言う仕組みで生理痛や過多月経が改善します。
ミレーナのメリット
- 飲み薬の様に毎日飲まなくて良い
- 生理痛が軽くなったり、過多月経が改善する
- 生理痛や過多月経のの改善と共に避妊ができる
- 避妊の効果が高い
- ピルなどと比較するとコストパフォーマンスが良い(費用対効果が高い)
毎日の飲み薬だと、どうしても忘れてしまう事もありますが、ミレーナは入れた後は最長5年間、入れっぱなしにしておけば良いので、患者さんの負担は軽いです。
ミレーナのデメリット
- 稀に(5%くらいの人)途中で抜けてしまうことがある(子宮筋腫や子宮腺筋症などで子宮の形が正常ではない方に起き易いです)
- 感染のリスク
- 子宮穿孔のリスク(0.1%)
- 挿入時も抜去時も、医療機関で行う必要がある
ミレーナ挿入の際の注意点
- クラミジア感染症を事前に調べる必要があります
- 超音波(エコー)で子宮の状態を確認し、安全に挿入できるか事前に確認します
- 挿入後、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年後に経過観察を行う必要があります
ミレーナは海外では、避妊具として既にとてもポピュラーでたくさんの女性が使用しています。
日本でも自費診療で挿入することも可能です。
また、月経困難症、過多月経に対する治療法として保険適応が認められているので、生理痛が辛い、出血量が多いなど、症状がある方は保険診療の対象になります。
当院価格
保険診療 約12000円(別途、診察料がかかります)
自費診療 70000円(別途、診察料がかかります)
5. ジエノゲスト(子宮内膜症治療剤、子宮腺筋症に伴う疼痛改善治療剤)
ジエノゲストは、低用量ピルとは違った方法で生理痛を辛くする子宮内膜症という病気を改善したり、痛みを軽くしてくれるお薬です。低用量ピルの様に排卵を抑えるのですが、ピルとは違う成分で出来ているので、血栓症のリスクがないことが特徴です。ですから、40歳以上で血栓症の副作用を懸念して低用量ピルが処方しにくい方にも使用し易いお薬です。
ジエノゲストにより期待できる効果
- 子宮内膜症や子宮腺筋症の方は、病状の悪化防止や病巣を縮小する効果が期待できる
- 生理痛を軽減できます
ジエノゲストの副作用
- 不正出血
- 更年期障害に似た症状
当院でのお薬代(どちらも別途保険診療可能)
ひと月あたり1000円前後
(1mg錠:1240円/月、0.5mg錠:873円/月)
6.GnRHアナログ製剤
子宮筋腫の診断を受けた方に有用なお薬です。
内服薬、点鼻薬、注射薬があります。
患者さんの状況に合わせて使い分けていきます。
最後に「生理痛の治療はいつまで続けるの?」についてもふれておきます。
ピルやミレーナは避妊の効果があるので、赤ちゃんが欲しくなった時には終了しなければ妊娠できないので、その時点が休薬やミレーナを抜く時期になります。
痛み止めや漢方薬は妊娠を目指していても使用出来るので、ずっと続ける事が出来ます。
年齢に関わらず、生理痛がずっと辛い方は、一生のお付き合いになるかもしれません。
お薬を使ったり、ご自身の病気の状態や新しい病気を確認しながら、大切な時期までメンテナンスしていけば、生理痛とも気楽に付き合えますし、将来の不妊症の予防にもなります。
ここまで書いた治療は、組み合わせて使うことも出来ます。
痛み止めと漢方薬、痛み止めとピル、痛み止めとミレーナ、ピルと漢方薬、という感じです。
補って使うことで、生理中や生理前後のいろいろな不調を整えていくことが出来ます。
⑤費用
診察やお薬代にかかる費用は、生理痛が辛いという症状があれば保険診療になるので、日本国内であれば全国どこの病院で行っても同じ金額です。
診察にかかる費用
- 初診料 850円
- 超音波検査(内診 もしくは お腹から) 約1500円
- 腫瘍マーカー(CA125)(採血) 約1000円
- クラミジア・淋病(おりもの検査)約1500円
処方
お薬が必要な人には、痛み止めかピルを処方します。
- 処方せん料(お薬をご案内した際に発生するお金) 200円
- お薬代
- ピル1ヶ月分 800~2200円(+診察料や処方箋料1500円くらいがかかります。)
- 痛み止め 約300~400円(1日3回1週間分)
費用について
来院されてから検査や方針が決まることが殆んどなので、来院前に費用を正確に割り出すことは難しいですが、上記の表を大体の負担額を知るためにお役立て下さい。